気分障害と旅行

本稿では気分障害(うつ病、双極性障害)の当事者が国内旅行および海外旅行に出かけることの是非を考えてみたい。もちろん、本記事は健常者の方々にとっても、いかに疲れない旅行をするかのヒントにあるはずだ。

最初にお断りだが、本稿の内容に関してはエビデンスがあまり見つからなかったので、基本は当事者である筆者の個人的な体験・見解である。参考程度にしていただきたい。

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筆者の余暇活動の中心になるのが、遠くに出かける日本国内の旅行と海外旅行であるが、うつ状態がよほどひどくない限りは幸い旅行ができる。現在は遠出をしてもそれなりに楽しめているので、躁・うつエピソードが発生していない小康状態である。そんなわけで、鉄道の乗り鉄関連の記事をたくさんアップできているわけだ。(お金の問題はとりあえず置いておく)

しかし、以前に投稿した記事、「精神障害者になってからあきらめたこと」で述べたように、一般的には旅行や遠出ができない精神障害者の割合が高い。気分障害の患者であっても、その例外ではない。そんなわけで、精神障害者である筆者が頻繁に遠出できていることは幸運なことではあるが、疑問に思う向きがあるのかもしれない。

最近の筆者の体験から、特に精神障害者の場合は症状や状態、調子が人ぞれぞれでひとくくりにできないので、配慮しなければならないことも人それぞれなので、一概に決めつけることができないと分かっている。したがって、旅行のできるできないも人それぞれではある。原則的には、急性期かどうかで旅行できるできないが決まると思われるので、必ず主治医に相談されたい。

十数年前に最初のうつエピソードを発症したときに、気晴らしに小田原城を散策したことがあるのだが、余計に疲れて帰ってくるだけだった。そのことを当時の主治医に話したら、うつの急性期には外出せずに自宅で静養に励むべきとのことだった。

ただし、静養の結果うつエピソードが落ち着てきて、外出が許可されるようになってきたら、その次の段階で短い旅行が許可されるようになってくると思われるので、その機会を待つべきだろう。うつ病になってしまったからといって、旅行趣味をあきらめる必要はないということをアピールしたい。

症状が小康状態になって安定したら、あとは患者本人が元々旅行が好きかどうかで旅行ができるかどうか決まるのだと考える。
ただし、筆者の経験から、留意したいことを挙げていきたい。

大切なことは、普段の生活リズムを旅行の時にも維持することである。特に睡眠時間は重要で、睡眠リズムが乱れる旅程をできるだけ避けることが賢明である。

具体的には、早朝・深夜の移動を避けることと、時差が大きいヨーロッパやアメリカ、ハワイ方面のフライトによる時差ぼけを避けることである。
普段睡眠している早朝・深夜時間帯の移動は、特に新幹線やフライト、夜行バス等で見られるが、これらは生活リズムを大きく乱すので、避けたほうが無難だ。

皆さんは、概日リズムを聞いたことがあるだろうか。1日は24時間だが、体内にも1日のリズムを持っていて、朝の日光で調整されるものだ。特に双極性障害においては、この概日リズムを守り、乱さないことがエピソード出現の予防につながると言われている。つまりは、毎日同じ時間に規則正しく生活するのがよいということだが、旅行はそのリズムを乱す危険がある。

時差ぼけに関しては、時差が大きければ大きいほど問題があり、時間帯によっては機内で眠っても実質徹夜しているのと同じ状態である。大きな時差を経験することは概日リズムを大きく乱す活動であり、これは躁エピソードを出現させる危険性がある。また、概日リズムの乱れが、人によっては直接うつエピソードを呼び出す場合も考えられる。
実際、筆者がアメリカ本土へのフライトを経験した直後にうつエピソードが出現し、数か月間行動がままならなかったことがあるので、アメリカ本土やハワイにはなるべく行かないほうが安全だろう。

うつエピソードが終わって安定したら、まずは無理のない時間帯で日帰り旅行をすることをお勧めする。日帰り旅行ができるようになったら泊まりの旅行にチャレンジだが、早朝深夜の移動があるくらいならば、現地に早く入って前泊をすることが無理をしない行動と考える。
海外旅行ならばアジアがおすすめだが、心身の疲れと概日リズムの乱れが多い活動なので、これは主治医にご相談を。

(参考資料:対人関係療法でなおす双極性障害 水島広子 創元社 2010 pp48-52)