就労の中で双極性障がいのエピソードに直面したら

双極性障がいをもつ筆者が障がい者枠でのオープン就労を始めて1年以上がたち、仕事が順調になってきたとすっかり思い込んでいた。ところが、ある日いきなり気分の波が現れて、調子が悪くなってしまった。仕事ではずっとバリバリと資料を作成したり、人と接することができていたのだが、突然頭痛などの身体症状が出てきて、やろうとしてもやれない状態に陥ってしまったのである。
身体的な症状に加え、精神的な症状としても妙にイライラしたり、一つの業務に集中できずに業務を完了できない、言動や振る舞いで不適切なコミュニケーションをとってしまうということも発生した。

幸い筆者は服薬しているので、今回休職に陥ることはなく、2,3日の欠勤や早退でリカバリーできたのだが、これがもしも双極性障がいにおけるエピソードと自覚できていなければ、症状がひどくなって容易に休職に陥り、回復するまでに多大な時間と負担を要したものと考えられる。休職は、一精神障害者としてはキャリア上の大きなハンディキャップになってしまうので、できれば休職なしに就労継続したいものである。

筆者の本来の業務は事務的なデスクワークであるが、それに加えて対人的な業務という対人刺激が加わったために、筆者の持つキャパシティを超えてしまい、身体が防御反応を示して自身にストップをかけたものだと思う。
双極性障がいの場合、過度の対人刺激がストレスとして蓄積されて、限界が来たところで気分の波が出現することが考えられるが、今回筆者はそれが見事に当てはまった形である。

今回調子を崩してしまったのを契機に、自分自身の得意苦手なこと、そして就労上配慮が必要な点について改めて考えてみた。そして、双極性障がいを持つ当事者が会社で就労する上で困難な点を考えてみた。

双極性障がい当事者としての得意・苦手なこと

得意なことと苦手なことはコインの表裏のようなもので、仕事に集中して大きな成果(例えば分量の多い資料を一気に完成させるようなこと)を出せることにあるが、イコール集中しすぎて自分自身にリミットをかけることができなくなってしまうことであろうか。
これが筆者にとっては躁エピソード(もしくは軽躁エピソード)なのであるが、リミッターがかからないエンジンを持つトラックが猛スピードで走るようなものである。その結果自分でストップをかけることができずに、何らかの形で事故を起こすことになる。

筆者の場合はそれがコミュニケーションツールであることが多い。
電子メールやTwitterのようなSNSの適切な使い方を逸脱して、不適切に情報をばらまいて取り返しがつかなくなることであろうか。
その結果、組織内の信頼関係が崩れて悪影響があったり、情報が不適切に拡散してしまう恐れがある。

つまり、会社で管理する側が留意しなければならないのは、双極性障がいの当事者が就労する上では、ストレスが蓄積していないかどうか、不適切な行動を起こさないか、常に配慮することが必要になるのではないだろうか(悪い言い方をすれば、当人が業務やふるまいで問題を起こさないかを監視することであるが)。

双極性障がいリワーク支援の視点から

筆者が自身の対処法を再考するためにネットを調べていたら、たまたま以下の資料を発見したので、早速一読した。

『企業における双極性障害を有する者の職場復帰及び支援状況の実態調査』

本稿では、この資料の要約を行うつもりはないのだが、当事者として、また企業で当事者を管理しうる立場になった視点で、気になった点をいくつか取り上げてみたいかと思う。
この資料には、リワーク支援を行う医療機関の医師の知見と、企業の産業医の知見が凝縮されているのだが、自身の対処方を見いだせるのは後者のほうである。

双極性障がい専用のリワーク施設は現在のところはなく、単極性うつ病の患者と同じ施設でリワーク訓練を受ける中で双極性障がいを診断して見出し、その対処法を考えて社会復帰に至る。

また、企業における産業医の知見としては、単極性うつ病の当事者よりも双極性障がいの当事者のほうが予後が良くなく、職場への復帰が躓きがちであることが指摘されている。
リワークプログラムを受けた場合でも、予定の期間で復職できるケースが多くなく、延長する場合が多くて社会復帰には苦戦するようである。

復帰するうえで困難なのが、双極性障がいの再発率の高さや、(筆者が実際に経験したように)躁状態の時に全社員にメールを送付するなどの不適切な行動をとることから、企業が慎重にならざるを得ないことだという。

双極性障がいの場合の障がい理解・心理療法

気分障がいの場合、認知行動療法(CBT)がファーストチョイス(第一の選択手段)になると広く言われているが、双極性障がいにおいては必ずしも100%当てはまるわけではない。CBTの場合、コラム表の記入などのホームワークがあるのだが、こなすのがなかなか困難であることも、CBTがファーストチョイスでない理由である。
まずは当事者本人の障がい理解と服薬、生活リズムが重要である。
それらの過程を経て、気分の波の把握の仕方(躁エピソード・うつエピソード)を学んでいって、病気の再発防止につなげていく。

そのための一つのツールとして、社会リズム療法があり、ソーシャルリズムメトリック(SRM)というワークシートを作成して、毎日の生活イベントの時刻と対人刺激の強さを数値化して、自身をモニターしていく。
筆者もリワークを受けていたころに記録をしていて、毎日電車の運行状況を記録するように自分の行動を記録したが、時計とにらめっこで苦行であった。以下の表が、筆者が自作したサンプルである。

この表には、起床・就寝、食事、入浴、対人刺激のイベントがあった時刻と対人刺激のレベルを毎日こつこつと記入していく。そして、毎日の気分のレベルを合わせて記録していく。これで、どの程度の対人刺激で自身の限界が来るかどうかを自己観察できるし、自身の症状を客観視することも可能になる。
本来は、医療機関で専門家の監修のもとで使用するものなので、セルフで行う場合は十分に注意されたい。

最後に

本稿での考察を通して、双極性障がいをもつ当事者にとって、就労を通しての社会参加や社会復帰は他の精神疾患に比べて困難なように思われる。それでも、多くの当事者が一定の配慮を受けながら就労して活躍しているのも事実で、専門家に一方的に断じられるのも正直癇に障るところがある。
この文献には、ちょっと興味深いことが書いてあって、双極性障がいの当事者は、専門家の言うことはなかなか聞き入れないけど、当事者同士だということを理解しあえるとしている。
当事者的には、なかなか良いところを突いているなと思った。

(参考資料)
企業における双極性障害を有する者の職場復帰及び支援状況の実態調査
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 2018年