障害者雇用状況の集計結果からうかがえること(2019年)

厚生労働省から毎年発表される障害者雇用状況の集計結果、そろそろ発表されるかなと思っていたら、2019年は年の瀬の12月25日になってようやく発表された。昨年度の集計は今年の3月になってからの異例な時期の発表だったが、今年の分は例年の12月に戻った形である。この集計結果、毎年6月1日現在の障害者雇用の状況をまとめたものなので、「ロクイチ集計」とも呼ばれている。

本ブログでもこの集計結果を毎年見守っているが、本稿では2019年の状況を見ていき、筆者なりの考察をしたい。
また、障がいをオープンにして雇用されること、転職すること、さらには障がいを開示しないでクローズドで働く事情なども推察してみた。

集計結果の概要

今年の集計は、2018年に法定雇用率が上昇してから2年目のもので、その法定雇用率を達成するのが困難な状況が見て取れる。

民間の一般企業の法定雇用率が現在2.2%であるが、今年は2.11%で、全体としてその雇用率を達成できなかった形である。それでも、障害者雇用者数の数でみる限りは、過去最大の数を更新し続けて、約56.1万人の当事者が雇用されているという。

一方、計上漏れのあった国の法定雇用率は2.5%。昨年度国家公務員の障害者選考試験が行われて、数百人の職員が加わったはずなのであるが、実際の雇用率が2.31%と達成できていない。雇用者数が7500人と、それまでの雇用率と雇用者数が倍増しても法定雇用率を達成できない有様なので、これまでの国自身の取り組みが非難されても仕方ないと思う。

精神障害者を取り巻く状況

ここからは、民間企業の状況をみていきたい。

障害者雇用で働く当事者の総数が56.1万人であるが、そのうち身体障害者が35.4万人、知的障害者が12.8万人、そして精神障害者が7.8万人である。

精神障害者を取り上げてみると、5年前の2014年における雇用者数が2.7万人、昨年2018年の雇用者数が6.7万人だったことを考えると、今年の雇用者数は過去最高である。以下のグラフを見ると、倍々ゲームであることが一目でわかるように、一見精神障害者の採用ブームとも受け取れるような結果である。

(出所)厚生労働省 令和元年 障害者雇用状況の集計結果 6ページ

知的障害者や精神障害者が中心に採用されると思われる特例子会社も毎年数が増えていて、今年現在517社が認定されているそうである。筆者的には、特例子会社の設立ブームであるとも思う。

だが、筆者からすれば、ちょっと違和感を覚えるのである。

精神障害者全体からすれば氷山の一角の数

はたらく精神障害者が7万人を超えた現在でも、精神科を受診する患者数や精神障害者手帳を所持する人の数からするとまだまだ少なく、働ける人はごく一部であると考える。

精神科を受診する患者数の推計が、2017(H29)年患者調査(厚生労働省)から見て取れるのだが、主な精神疾患である統合失調症圏の患者数が約79万人、うつ病などの気分障害圏の患者数が約127万人で、これらを合計して約206万人である。

また、精神障害者保健福祉手帳(精神障害者手帳)の全国での所持者数は、2016(H28)年で約84万人(1級13万人、2級45万人、3級20万人)である。

そのうち、実際に就労が可能な当事者の数は、3級の20万人プラスアルファであると考えるのが妥当だが、そのなかの大多数が障害者雇用で就労しているとは言えない状況で、まだまだ少ない数なのは確かである。

また、ロクイチ集計から読み取れることとして、企業の従業員数が多くなるにつれて、特に大企業では、構成割合が身体障害者多数となり、一方の精神障害者は中小企業で多く採用されている傾向がある。

精神障害を隠して働いている人も多い

精神障害の特徴は、他の障害種別と違って外見から障がいを判断できないため、障がいを持っていることを開示しないで健常者と同じように就労し、生活している当事者も数多いのが実態である。

2016(H28)年の「生活のしづらさなどに関する調査」(厚生労働省)の結果を見ると、障害者手帳を取らずに自立支援給付を受けている人の数が約33万人存在する。その多くが精神疾患の患者と考えられるので、障害者雇用外で障がいをクローズドで健常者として働いている当事者の数が障害者雇用の当事者の数を上回っているものと推察する。

この結果を見ると、いかに精神障害を開示公表することが社会的な不利益を伴うことであるのがよくわかる。ゆえに、手帳を取って障がいオープンで働く人の数が今日でも7万人ととても少ないのである。

精神障害者の転職事情 ~筆者の経験から~

本稿の冒頭で述べた通り、精神障害者の障害者雇用での雇用者数が、法定雇用率を充足するために伸び続けていることを申し上げたが、それをもって精神障害者が広く快く社会に受け入れられているわけではないことを、我々は肝に銘じるべきである。

障害者雇用が歴史的に身体障害、知的障害、精神障害の順に進んだことから、精神障害に対する認知と理解がまだまだという面が現在でも強いかと思う。現在でも精神障害者は採用の対象外であると言い切る会社もあるくらいである(法定雇用率を充足できさえすれば、精神障害者を必ず採用しなければならないわけではない点に留意する必要がある)。

筆者は2019年に障がいオープンから障がいオープンの状態での転職を果たしたが、現在でも精神障害者が転職するの?という空気感を覚えた。

特に、障害者雇用専門の人材会社(エージェント)を利用しようとすると、身体障害者はすぐ利用できるのに、精神障害者は電話面接や対面面接を経て初めて求人案件を紹介してもらえるような高いハードルがある厳しい状況である。

ましてや、雇用条件や待遇面で贅沢を言っていられるような状況ではなかった。まずは内定ありきで、条件は二の次にならざるを得ない。

筆者が勤務していた前職の大手ITサービス業(コールセンターの会社)では数百人の障害者が働いているが、中途採用では、身体障害者は正社員の待遇だが、精神障害者は時給制の契約社員での採用で、契約社員から正社員登用へのハードルが大変高い会社だった。

まとめ ~結局何を言いたいか~

法定雇用率の上昇によって精神障害者の雇用が進んできた状況であるが、まだまだ精神NGの会社も多い状況で、決して障がいオープンの状態では就職しやすい状況ではないということである。

企業の人事や経営者も人間。彼らの本音ベースとして、精神障害者のことはあまり採用したくないのである
行政の要請や社会責任ということで雇用せざるを得ない状況では、精神障害者がオープンで転職するなんてもってのほかだという空気さえ感じたのである。

働き方改革が障害者雇用を後押しするには違いないと思うのだが、社会全体のダイバーシティーやインクルージョンへの理解が必要なのだと思う。

※お断り:アイキャッチ写真に写っているビルの保険会社名は、本稿の内容とは一切関係がありません。